借地権担保制度の課題と将来像 抄録集

借地関係コラム

平成25年11月

借地権担保制度の課題と将来像 抄録集

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  1. 1.借地権担保の問題点
  2. 2.本稿の目的
  3. 3.研究(検討)の内容
  4. 4.結論

1.借地権担保の問題点

我が国の借地契約は賃借権の契約が大半を占めているため、物権と異なり問題点が多く、課題を抱えている。法律上の課題のひとつは、土地賃借権そのものに抵当権をつけることができないと学説上解釈されていることにある。したがって、建物に抵当権をつけて担保としている。我が国では民法上、土地と建物が別個の不動産とされていることから、借地上の建物に担保権(抵当権)をつけることは可能である。また、この抵当権の効力は、借地権に及ぶと判示されている。

この借地権付建物の借地権部分の課題は、権利としての不安定性を解消する方策を検討することである。それは、賃借権としての担保価値を高めることに帰着する。

なかでも、借地権は賃料不払い等により、解約される危険性がある。借地権者が賃料不払いをした場合には、賃貸人から契約を解除される場合があるため、抵当権者は、借地権の消滅のおそれのある事実が生じた場合は、あらかじめ賃貸人に、抵当権者に通知する義務を課した文書(以下「念書」という)を作成してもらい、賃料不払いを防ぐ方策をとっている。しかし、裁判ではこの念書の効力を否定する判決がみられ、契約が解除されるケースもある。他方で、抵当権者からの賃貸人への通知義務違反の損害賠償請求において、近年最高裁で念書の効力を認めたはじめての判決(最判H22.9.9判時2096号66頁。以下「平成22年判決」と呼ぶ)が登場し、念書の効力自体を考える上で進展をとげたが、念書の効力の判断基準については未解決のままである。

2.本稿の目的

かかる借地権解除の不安定要素が、借地権付建物の抵当権者には常に付きまとっている。本稿の課題はこの不安定要素を追求し、解決策を図ることにある。

そこで本稿は、平成22年判決を基に、不明確であった賃料不払いにおける念書の効力を明確化することにより、賃貸人、賃借人及び抵当権者の三者間で、念書契約を結ぶべき根拠を明らかにした上で、効力のある念書のあり方を提言し、賃料不払い問題を解決することを目的とする。

この賃料不払いは、平成22年判決で、念書の効力について新たな展開をみせた。それは賃貸人の抵当権者への通知義務違反について、裁判所が抵当権者から賃貸人への損害賠償請求を認めたことにある。これは、判決が念書の効力を認めたことともいえる。かかる賃料不払い問題は、過去の最高裁の判決では明確化されていなかった。

本稿は、かかる問題意識に基づいて、借地権担保の今後のあり方を検討し、借地権担保上の問題点を明らかにし、その解決策を探ることを目的としている。

3.研究(検討)の内容

第一章

我が国の借地権担保は借地上の建物に抵当権を設定し、従たる権利である借地権に抵当権の効力を及ばせる方法をとっている。しかしこの方法では賃料不払い問題を解決する手段がみつからず不安定である。そこで、過去の法改正の経緯及び担保化の方法等に手掛かりがあると考え検討したが、現行法の枠内での解決方法しかみつからず、最終的に賃料不払いをなくす方法は念書しかない、と結論付けた。

第二章

念書の仕組みを判例、学説及び実務の中で研究し、法律的に効力のある念書を実現することを検討した。まず、賃料不払い問題において、念書がある場合とない場合の学説及び判例研究を行った。ない場合は催告否定説が大勢を占めたが、ある場合は判例、学説とも肯否が分かれ、不払いにおける念書の効果があることが判明した。また、平成22年判決を分析した結果、念書の効力を改めて考えさせられた、との意見があった。さらに、上記分析の中で、念書は賃借人に出すべきであり、契約当事者でない抵当権者に出すのは意味がないとする意見があり、賃料不払い問題は、現状の念書の二者契約では解決が困難なことがわかった。

第三章

賃料不払い問題を解決する方法として、念書の三者契約(賃貸人、賃借人、抵当権者)を提言した。その三者契約の法構造として、第三者のためにする契約、契約結合及び三面契約を取り上げ、検討を行った。その結果、念書は、賃貸人と抵当権者の契約及び賃貸人と借地権者の複数契約があり、この二つの契約が相互依存関係にあると解し、契約結合が最も念書契約に合致するものと結論付けた。

4.結論

本稿では、借地権本来の価値に見合った借地権の担保化が行われる制度を前提に、検討をおこなった。本来の借地権の価値とは、賃料不払い等の債務不履行のない、安定した状態での借地権の担保価値である。

上記検討の中で、まず立法論について考察した。立法化で、借地権を地上権とした場合、その権利は強固になることが確認されたが、最終的に賃料不払い問題が付いて回ることが解明された。なぜなら、土地を借りる契約は賃貸借契約であり、賃料の支払が欠かせないものだからである。したがって、この賃料不払い問題を解決するには、念書の三者契約を実現する方法しか対策がないことがわかった。

したがって、本稿で検討を試みた方法の中では、賃料不払いに対する効果の実現が発揮できる方策は、念書の三者契約においてほかにない。この三者契約が実現した場合、安定化した借地権担保が実現可能となる。仮に賃料不払いが発生した場合でも、その不払いの事実が三者間で情報共有が可能となり、この三者間で対策が図れる。その対策は、抵当権者による賃料の代払いをはじめとする、法律的に可能な方法である。三者契約は、立法化をおこなわなくても実現可能な点に意義がある。

この三者契約を行うことにより、賃料の不払いがなくなり、借地権担保の安定化につながる。よって、本稿の最終的な課題である賃料の不払い問題は、念書の三者契約によって解決する。この結果、借地権担保の安定化を図ることが法律的に可能となり、あわせて借地権としての担保価値を高めることに帰着する。