所有者不明土地問題の課題と解決

借地関係コラム

平成29年10月

所有者不明土地問題の課題と解決

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  1. Ⅰ.所有者不明土地問題とは
  2. Ⅱ.所有者不明土地問題の課題
  3. Ⅲ.所有者不明土地問題の解決

Ⅰ.所有者不明土地問題とは

1.所有者不明土地の実態

土地(特に地方圏)の相続人は、相続した土地を処分したいが売れない場合が多い。相続人にとって、相続登記手続き等を行うと費用も嵩むため、登記しないでそのままにしておくのが現状である。これが何世代も続くと、その土地が誰のものかわからなくなる。また、相続人が負担を嫌い、相続を放棄する場合も少なくない。

市町村はあらゆる手段で相続人を追いかけるが、複雑で手間暇もかかるため、現在の所有者特定は困難となっている。最終的に、市町村は所有者に固定資産税をかけられず、税収が落ちていく一方である。

2. 不在者・相続人不在に関連する条文

(1)民法第25条(不在者の財産の管理) ※1

1. 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。

2. (略)

(2)第951条(相続財産法人の成立)

相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。

(3)民法第952条(相続財産の管理人の選任)

1.前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。

2. (略)

3.所有者不明土地に関する統計

(1)不在者財産管理処分件数の推移

不在者財産管理処分件数の推移

(2)空き家の推移

全国住宅数に対する移住世帯なし

(3)土地総数に対する相続登記の件数

土地総数に対する相続登記の件数

4. 平成29年9月28日(木)NHKクローズアップ現代 ※2

「都市に広がる所有者不明土地 あなたの実家も要注意」
登記簿上で所有者がたどれない“所有者不明土地”が増え続け、その総面積は九州の広さを超えるという推計が今年6月に発表された。かつては山間部に多いとされたが、都市部にも広がり始め、市民生活をおびやかしている。所有者がわからない土地のため、崖崩れが直せない、道路を広げられない等の課題や、背景にある相続の問題や対策について番組で紹介している。
出席者
増田寛也 (所有者不明土地問題研究会座長)
山野目章夫 (早稲田大学大学院教授)

5.葛飾区実例 密集地域整備担当課 ※3

「100年以上前の名義人ではないか。」
問題の土地の書類上の所有者は、すでに亡くなっている。しかし、書類の更新が長年行われていないため、所有権を持つ相続人が、ねずみ算式に増えている。区では、相続人の確認作業を10年以上続けているが、いまだに全容がつかめていない。

Ⅱ.所有者不明土地問題の課題

1.登記制度

わが国では、権利の登記は任意となっている(登記しなくても罰則なし)。

2.複雑な登記制度

相続の登記を個人で行なうことは難しい。費用を支払い司法書士に依頼しなければならない。

3.地籍調査

国土管理の土台である地籍調査の進捗率が5割程度となっている。

4.市区町村の課題

公共事業用地の取得困難は、様々な分野で国・地方公共団体が直面する課題となっている。また、所有者不明土地は、固定資産税等の税収を低下させている。

Ⅲ.所有者不明土地問題の解決

1.日本経済新聞記事(解決策の検討)※4

日本経済新聞によると、国土交通省は平成29年6月12日、所有者が分からない土地に関する有識者会議の初会合を開いた。所有者台帳では所有者を特定できないことが土地の活用を妨げているとして、対応策を検討した。有識者会議で年内に方向性をまとめ、来年の通常国会への関連法案の提出を目指している。

上記有識者会議を、国交相の諮問機関である国土審議会の土地政策分科会に特別部会として設置した。土地制度に詳しい山野目章夫・早大大学院教授が部会長に就任。民間で所有者不明土地問題に取り組む増田寛也元総務相、久元喜造・神戸市長らが参加している。

初会合では、「土地所有者の特定に多大な時間と費用が費やされており、所有者を円滑に探す仕組みが必要」との認識で一致した。現行より簡易な手続きで土地を活用できる方法も議論する。

2.公共事業のため不在者の土地等を任意取得するための手続(補償業務)※5

事業者の申立てにより、家庭裁判所が不在者財産管理人※6 を選任する。

不在者財産管理人が、家庭裁判所の権限外行為の許可を得た上で、事業者と売買契約を締結する※7。

3.公共事業のため相続人の土地等を任意取得するための手続(補償業務)※8

事業者の申立てにより、家庭裁判所が相続財産管理人※9を選任する。
相続財産管理人が、家庭裁判所の権限外行為の許可を得た上で、事業者と売買契約を締結する。

4.補償実例※10 仙台市行方不明者からの土地取得手続き

解決方法としては、①失踪宣告、②不在者の財産管理人選任、③収用採決の3方法を考えた。①の失踪宣告の方法は、7年の期間満了時に死亡したものとみなされるため、失踪者の相続人との契約で用地取得する。②の不在者の財産管理人選任の方法は、利害関係人が家庭裁判所に不在者の財産管理人選任の申立てを行い、財産管理人を選任してもらい、当該管理人との契約で用地取得する。③の収用採決では、土地収用法による土地収用手続きの不明採決(真摯に調査してもなお不明)により用地取得する。

以上のうち本件では、①の失踪宣告による方法を、地権者の親族が選択した。本件では、土地売買契約まで2年5か月を要し解決した。

5.私見

(1)補償の用地取得

登記簿等によっても所有者が判明しない場合、公共用地の取得等ができず、国・地方公共団体等が事業を開始できないこととなる。そこで、補償業務の場合、国土交通省の「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン」等により、用地取得を行っている。但し、依頼内容によりやり方が異なる場合もある(工夫必要)。

(2)公的な解決方法

a.登記手続き
所有者不明土地は、相続人を戸籍調査によりある程度つかめるが、市役所等が調査する場合、膨大な人件費、時間がかかる等難しい。国の法律を改正して所有者の登記を職権で行うように変更すべきである。また、複雑な相続登記手続きを簡素化する(現在、法定相続情報証明制度の試みがされている)。相続した土地がいらない場合、国・地方公共団体に寄付することも考えられる。

国・地方公共団体で相続登記等の各種手続きコストを下げることも必要である。
さらに、相続登記を義務化することを法制化する。

b.全国の土地の詳細を把握する
一例では、対馬を韓国資本が購入・北海道の水源を中国資本が購入するケース等、日本の土地法制は外国人の土地購入に対する制限が緩い。また、土地の管理も不十分で、国として全国土地の詳細を把握していない。日本全部の土地を国策でチェックする必要がある。

なお、外国人の土地取得規制については、外国人土地規制法(大正14年4月1日法律第42号)があるが、現在は適用されていない。

  1. ※1. その他 民法28条(管理人の権限)、103条(権限の定めのない代理人の権限)
  2. ※2. https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4040/index.html 2017.10.6閲覧
  3. ※3. ※2に同じ
  4. ※4. https://www.nikkei.com/article/DGXLASDF12H12_S7A910C1EE8000/ 2017.10.6閲覧
  5. ※5. 国土交通省・建設産業局 総務課公共用地室「公共用地業務の現状と課題(所有者不明土地の用地取得)」P20
  6. ※6. 不在者財産の場合は、不在者財産管理人(弁護士など)となる。
  7. ※7. 但し、無道路、建築不可等で、土地の価値が低い場合は選任しないケースが多い。
  8. ※8. 国土交通省・建設産業局 総務課公共用地室「公共用地業務の現状と課題(所有者不明土地の用地取得)」P21
  9. ※9. 相続財産の場合は、相続財産管理人(弁護士など)となる。
  10. ※10. 用地ジャーナル「行方不明者からの取得手続き」2003.10


<参考資料>
  1. 1.国土交通省・建設産業局 総務課公共用地室「公共用地業務の現状と課題(所有者不明土地の用地取得)」補償業務管理士研修テキスト抜粋
  2. 2.吉原祥子「土地の所有者不明化」土地総合研究2017春号
  3. 3.舛田純「外国人の日本国内の土地取得と土地法制度上の根本問題」土地総合研究2014秋号
  4. 4.日本経済新聞抜粋2017.8.14朝刊、2017.8.21朝刊